遺産分割協議に応じない相続人がいる場合、どうしたらよいか?弁護士が解説

遺産分割協議に応じない相続人がいると、相続手続きを進められなくなってしまいます。
かといって、遺産分割協議をせずに放置するとさまざまなデメリットやリスクが発生します。
相続人に遺産分割協議に応じてもらえない場合、調停や審判によって解決できる可能性があります。
この記事では遺産分割協議に応じない相続人がいる場合の対処方法を弁護士がお伝えしますので、他の相続人と折り合いが悪いなどの事情があってお困りの場合には参考にしてみてください。

1.遺産分割協議には相続人が全員参加しなければならない

1-1.そもそも遺産分割協議とは

遺産分割協議とは、相続人が参加して遺産の分け方を決定する話し合いです。
相続が発生したとき、遺言書で相続方法が指定されていなければ、相続人が自分たちで話し合って遺産の分け方を決めなければなりません。
民法では「相続人になる人(法定相続人)」は決まっていますが「どのように遺産を分けるべきか」までは決まっていないからです。
具体的な遺産の分け方は、相続人たちが話し合って決定します。そのための話し合いが遺産分割協議です。
遺産分割協議が成立しないと、不動産の相続登記や預貯金の払い戻しなども受けられず、相続手続きが滞ってしまいます。

1-2.遺産分割協議には相続人全員が参加する必要がある

遺産分割協議には、相続人全員が参加しなければなりません。
1人でも欠けると遺産分割協議が無効になってしまいます。
また遺産分割協議を成立させるには、相続人が全員合意しなければなりません。意見の合わない相続人がいても、多数決などの方法では遺産の分け方を決められません。

遺産分割協議に応じない相続人がいる場合、遺産分割協議を進められないので相続手続きを進められなくなってしまいます。

2.遺産分割協議に応じてもらえないパターン

どういったケースで遺産分割協議に応じてもらえない場合が多いのか、以下で具体例をみてみましょう。

2-1.相続人の仲が悪い

もともと相続人間の仲が悪い場合、ある相続人が声をかけても相手が遺産分割協議に応じないケースが多々あります。
お互いに感情的になり、争いが激しくなって収拾がつかなくなるケースも少なくありません。

2-2.相続財産を分けにくい

遺産が実家の不動産のみなどで、相続財産を分けにくい場合でも相続人間の対立が生じやすいといえます。
各人で意見が異なりお互いに遺産の分け方に納得できないので、遺産分割協議に応じない相続人が出てきます。

2-3.相続人同士が疎遠

相続人の関係が疎遠な場合にも、遺産分割協議に応じない相続人が出てくる可能性があります。声をかけても無視される場合も少なくありません。

2-4.相続財産の管理者を信用できない

被相続人の遺した預金を管理している相続人が使い込んでいる可能性があるなど、相続財産の管理者を信用できない場合にも遺産分割協議を進めにくくなります。
他の相続人は「管理している相続人が遺産を使い込んでいるのではないか」と疑いますが、疑われた相続人は「使い込んでいない」と反論するので収拾がつかなくなり、遺産分割協議を開始できないケースなどです。

2-5.遺産の範囲に争いがある

ある財産が遺産の範囲に入るのか、争いがある場合にも遺産分割協議を進められません。
たとえば相続人名義になっているけれども被相続人が資金を出して管理していた預金がある場合、名義は相続人でも遺産の範疇に入る可能性があります。
ただ、預金の名義人である相続人は「贈与された」などと主張して、単なる名義預金であることを認めないでしょう。

また特定の相続人により「遺産の一部が隠されているのではないか?」と疑われるケースもよくあります。

遺産の範囲が確定しないと遺産分割協議は進められません。相続人としても納得できず、遺産分割協議に応じないケースが多々あります。

2-6.遺言書に納得していない相続人がいる

遺言書が遺された場合には、基本的に遺言内容に従って遺産分割が行われます。
ただ特定の相続人が「遺言書は無効」と主張するパターンがよくあります。その場合、遺言書が有効か無効かを先に確定しなければなりません。
遺言書が無効であることが明らかにならないと、遺産分割協議を進められないのです。
遺言書の有効性について争いがあると、すぐには遺産分割協議ができません。

2-7.特定の相続人が高額な贈与を受けている

特定の相続人が高額な贈与を受けた場合、その相続人の取得分は「特別受益」となります。特別受益が認められると、「特別受益の持戻計算」を行って受益を受けた相続人の相続分をへらす計算をするのが原則です。
ところが受益を受けた相続人が贈与を否定したり贈与財産の評価方法について意見が合致しなかったりすると、遺産分割協議を円滑に進められなくなってしまいます。結果的に納得できない相続人は遺産分割協議に応じなくなるケースがよくあります。

2-8.寄与分を主張する相続人がいる

被相続人の生前に献身的に介護などをして「寄与分」を主張する相続人がいる場合にも、遺産分割協議が紛糾しやすい傾向があります。寄与分とは、ある相続人が遺産の維持や増加に特別な貢献をしたときに認められる多めの遺産取得割合です。たとえば相続人が献身的に被相続人を介護した場合や、被相続人の事業を無給で手伝っていた場合などに寄与分が認められる可能性があります。

寄与分が認められると、その相続人の遺産取得割合を増やす計算を行うのが原則です。
ところが他の相続人が寄与分を否定するので、相続人間で意見がまとまらなくなってしまいます。するとお互いに遺産分割協議を拒否して、相続手続きを進められなくなります。

3.遺産分割協議を放置するリスク

遺産分割協議に応じない相続人がいる場合、相続手続きをせずに放置したらどのような問題が起こるのでしょうか?以下で遺産分割協議を放置するリスクをご説明します。

3-1.相続税が高額になりやすい

1つ目に、相続税が高額になりやすい問題があります。
遺産の価額が相続税の基礎控除を超える場合、相続人は相続税の申告と納税をしなければなりません。期限は「相続開始を知ってから10か月以内」です。
遺産分割協議が済んでいなくても、上記期限内に相続税の申告と納付をしなければなりません。
期限内に遺産分割協議が成立しなかった場合、法定相続分に応じて相続税を申告納付する必要があります。その場合、配偶者控除や小規模宅地の特例などの相続税の控除や軽減特例が適用されません。後に還付申請する方法はありますが、手間がかかりますし、いったんは高額な相続税を払わねばなりません。

相続税を節税したい人にとっては大きなデメリットとなるでしょう。

3-2.相続財産の使い込みや隠ぺいが行われやすい

相続財産を特定の相続人が管理している状態で遺産分割協議をせずに放置してしまうと、相続財産の使い込みや隠ぺいが行われるリスクが高まります。

たとえば長男と次男と三男の兄弟がいて、長男が父親の現金を管理していたとしましょう。この場合に遺産分割協議をせずに2~3年も放置していたら、その間に長男が現金を使い込んでしまうおそれが非常に高いと考えられます。

相続開始後の遺産使い込みを防ぐには、早い段階で遺産分割を行ってそれぞれの相続人が取得すべき財産を確定すべきです。

なお相続財産を管理している相続人が遺産の内容を開示しない場合、弁護士に相談すると遺産内容を調べられる可能性があります。相続財産を確定しておけば、万一使い込まれても後から取り戻しをしやすくなります。
遺産分割協議が進まず特定の相続人が遺産を管理している場合には、早めに弁護士へ相談しましょう。

3-3.相続財産を活用できない

遺産分割協議が完了しないと、相続財産を活用できません。
不動産があっても賃貸などできずに放置するしかありませんし、預金も出金できない状態が続きます。株式などの運用も難しくなるでしょう。
せっかくの財産を活用できないのは大きなデメリットとなります。

3-4.休眠預金扱いになってしまう

預金があっても遺産分割協議を行わずに放置していると、預金が「休眠預金」扱いとなってしまいます。休眠預金になると、預金は公益活動などに使われます。後に申請すると返してもらえるケースが多数ですが、そのまま放置していると返ってきません。
取引がなくなって10年が経過すると休眠預金扱いになる可能性があるので、それまでには遺産分割協議を行って預金を分けるのが良いでしょう。

3-5.株式の権利が失われる

遺産の中に株式がある場合、放っておくと株主としての権利が失われる可能性もあります。
株式発行会社は長期間所在不明な株主の株を買い取れるからです。
具体的には5年以上株式を放置していると、会社に株式を買い取られて株主でなくなってしまう可能性があります。
遺産の中に株式がある場合にも、早めに遺産分割協議を行うのが得策といえるでしょう。

3-6.特別受益や寄与分の主張ができなくなる

2023年4月からは法改正により、相続開始後10年が経過すると基本的に「特別受益の持ち戻し計算」や「寄与分」の主張ができなくなってしまいます。
つまり「法定相続分」に応じた遺産分割しかできなくなるのです。
特別受益の持ち戻し計算や寄与分の主張を行いたい方は、早めに遺産分割協議をしないと不利益を受けてしまうといえるでしょう。

3-7.再度の相続が発生してさらに複雑になる

遺産分割協議が調わない間に相続人のうちの一部が死亡して次の相続が起こると、相続人の数が増えてしまいます。
二重に相続手続きを行わねばならないので、集めなければならない戸籍謄本の通数なども増えて相続手続きが煩雑になります。

また相続人同士の世代が異なるため相続人関係が希薄になり、コミュニケーションをとりにくくなって遺産分割協議を進めるのがさらに難しくなるケースも多々あります。

再度の相続が発生して状況が複雑になる前に、早めに遺産分割協議を行いましょう。

4.遺産分割協議に応じてもらえない場合の対処方法

特定の相続人が遺産分割協議に応じない場合には、以下のように対処しましょう。

4-1.遺産分割調停や審判を申し立てる

まずは家庭裁判所で遺産分割調停や審判を申し立てる方法があります。
遺産分割調停を申し立てると、家庭裁判所から相続人全員へ呼出状が送られるので、裁判外の話し合いには応じなかった相続人も出頭する可能性が高まります。
どうしても出席しない相続人がいる場合、手続きが遺産分割審判に移行して裁判所が遺産分割方法を決定します。

このように遺産分割協議に応じない相続人がいても調停や審判を利用すれば最終的に遺産を分けられるので、困ったときには申し立てを検討してみてください。
なお遺産分割調停や審判は弁護士に依頼できます。特に審判になると法律的な主張をしないと不利になる可能性が高いので、申し立て前に弁護士へ相談するようおすすめします。

4-2.護士に相談、依頼する

遺産分割協議に応じてくれない相続人がいる場合、弁護士に代理交渉を依頼する方法もあります。
弁護士に依頼すると、財産内容を開示しない相続人がいる場合にも職権で遺産内容を調べられるので、遺産の使い込みを回避しやすくなります。万一使い込まれた場合でも取り戻し請求が可能です。

弁護士には遺産の範囲の確定手続き、遺言書の有効無効を確認する手続きなども依頼できます。
また相続人間で感情的な対立がある場合でも、弁護士が代理人として交渉するとスムーズに話し合いを進めやすいものです。
もちろん遺産分割協議が決裂して調停や審判になった場合にも安心して継続依頼できるでしょう。

遺産分割協議に応じない相続人がいる場合、弁護士に依頼するとスムーズに問題解決につながるケースが多いので、困ったときには相談してみてください。

DUONでは遺産相続の案件に力を入れて取り組んでいます。遺産分割協議に応じてもらえなくてお困りの相続人さまがおられましたら、まずは一度、お気軽にご相談ください。

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